祝島3

  柳井港を、3時40分発の高速船に乗った。

 「渡し舟」みたいな船が好きだ。こういう小さい船がたくさん走っている世の中は、いい世の中のような気がする。
 船の中で、「私、柳井市の出身で祝島出身の友だちもいるけど、一度も行ったことがなくて。福島の事故をきっかけに行くことにしました」というお姉さんに出会った。GWでちょうど東京から帰省しているのだそうだ。旅行者と思しきは、私とそのお姉さんのみだったが、途中からたくさんの人が荷物を持って乗り込んできた。新品の冷蔵庫も積んである。
 高速船は室津半島の海岸線沿いに、いくつかの港に立ち寄りながら進む。午後の低い日差しを浴びた半島をぼんやり眺めていると、やがて船は外海に出る。それから5分くらいでスピードが落ち、到着した先が祝島だった。
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 港に着くやいなや、航行中から「早く。早く」と嬉しそうにしていたおばあさんが、転がるように下船していった。
 船を下りると、すぐ目の前にそびえ立つ山が目に入る。本当に平地は少ないんだなぁということが、一目瞭然。そこにへばりつくようにして集落が広がっている。
 GWでちょうど帰省の人が多いようで、港は賑わっていた。夕暮れの中、子どもや家族連れがのんびり港に集まって来ている。あまりに普通に皆が歓迎しているものだから、誰が誰の出迎えかちょっと分からない。それがとても温かい光景なだけに、途端に自分が旅行者なことを思い出して少し寂しくなる。新品の冷蔵庫は台車に乗せられて、おばあちゃん数人が「これが、祝島のええところじゃあ」と言いながら運んで行った。
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 翌朝は、「はまや旅館」さんで朝ごはんをいただいたあと、まずは島を向かって左回りに歩いてみる。「平さんの棚田」があるらしく、これはぜひ行ってみるといいと原さんから聞いていたのだ。「米さえあれば生きていけるから」と言った平さんのおじいさんの代から3代に渡って、人の力だけで石垣を積み上げてきたものだという。それをめざして歩いてみることとする。
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 神社の横の坂道をだいぶ登ると、お墓が見えてきて、目の前の景色が一気に広がる。
 亡くなった人たちはきっと、島一番の眺めのいいところで安らかに眠っているのだろう。そこから見える瀬戸内海は、本当に素晴らしかった。まだ午前中なのに海はキラキラと光っていて、朝から漁に出ている祝島の漁船の塊が見える。その先には田ノ浦のある四代や、小さな島々がずっと先まで、蜃気楼のように浮かんでいる。
 自分の立っている島の緑と海と、向こうの島影とそれにつながる空と。あまりに神々しくて、少し泣けた。
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 祝島はびわが名産なのだけれど、海沿いにはびわの段々畑がずっと続いていた。今の時期は、一つ一つのに紙のカバーをかぶせた状態になっていて、その紙袋がオレンジ色なものだから、とても畑が賑やかに見える。そこに色とりどりの野花が、まさに花を添えて、海のブルーとのコントラストが素晴らしい。それにしてもこの斜面で一つ一つ被せていくのはさぞ大変な作業だろう。
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 そうして歩き続けること2時間弱。いきなり「平さんの棚田」が現れた。10メートルくらいの石垣が実に3段、見事に積み上げられている。思わず、「えー」と叫ぶ。すごいとは言っても、親子3代が人力で積み上げたのだから、まさかここまでのものとは思っていなかった。
 この棚田で、海がやさしい日も厳しい日も、この海を眺めながら、お米を作って生きてこられたのだ。それは、どういう気持ちのすることなのだろうか。
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 島は残念ながら、1周することができないので、棚田まで行って町へ引き上げてきた。
 町は細い坂の路地がうねうねと続いていて、立派な石壁も残っている。路地好きにはたまらない道である。
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 一方、港ではおじさんが、大きな木をカンナで削っている。
 もしかしてこの人は、原さんに聞いていた「島で唯一の船大工」さんではないだろうか?島では今でも木造船が現役で使われていて、船大工さんがお一人だがまだ、おられると原さんは言っていた。
 一とおり見学したあと、「船を作っているんですか?」と聞いてみる。
 「ああ。船」
 「何の船ですか?」
 「これは、テレビ用」
 どうやら、来年のNHK大河ドラマで平清盛が乗る船を作っているのだのだと、周囲にいた人たちが教えてくれた。NHKがわざわざここまで依頼に来るということは、船大工さんは本当に、数が少なくなっているのだろう。
 おじさんは墨つぼを片手に印を打っては、カンナでシャッシャッと木を削っていく。じっと見ていて飽きない。
 おじさんの周りにも、たくさんの見学者のような手伝いのような別のおじさんたちが集まって来ていて、のんびりと昼寝をしたり、ときどき手伝ったりしていた。磯の香りを嗅ぎながら、波の音とカンナの音をBGMにした昼寝は、気持ちよかろう。
 
 祝島では4年に一度、「海舞」というお祭りが行なわれる。これは9世紀末、京都の石清水八幡宮から分霊を持ち帰ろうとして瀬戸内海を航行中だった国東半島の人々が、台風で遭難してしまったところを、祝島の人たちが助け、丁重にもてなしたことに端を発するお祭りらしい。それ以来、49キロ離れた国東半島から4年に一度、島に感謝の神楽を奉納するために神様船で渡ってくるようになったという、何とも「感謝の応酬」のようなお祭りなのだ。
 船大工さんにうかがったところ、それをお迎えする神様船もやはり作っておられるとのことで、倉庫にしまってあるのを見せていただいた。10メートルはあるであろう、立派なものだ。同じ倉庫には、「原発絶対反対」の旗がひっそりと、でも真新しく、しまってあった。
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 最後は、今度は右回りに島を歩いてみた。
 途中、はっと顔を上げると、豚さんたちがお出迎え。原発の問題が浮上してから島では、持続可能な循環型の農業も模索されているとのことで、休耕田で豚を飼っていると聞いていた。豚たちが土地を掘り返すことで土地を開墾することが出来るそうだ。そういえば、町では「ありが豚」と書かれた生ごみ回収箱があちこちに置いてあったし、朝にはリアカーで生ごみ収集に回っているおじさんがいた。あれは、豚さんの餌だったのだ。
 お互いに少しびびりながら見つめあっていると、おばちゃんが「ぶーちゃん。ぶーちゃん」と言いながら自転車で颯爽と現れた。そして餌(生ごみ)をばら撒き、豚たちが満足げにたいらげているのを見届けると、颯爽と去って行った。豚はとても元気そうだ。
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 祝島の隣りには、小祝島という小さな島が引っ付いていて、夕方はそこまで歩いて宿に引き返した。夕食は、6時から、魚づくし。あまりに美味しくて、ご飯を3杯くらいおかわりした。

 もうすぐ日が沈もうとしている。あと30分もすれば太陽は赤く燃えだすだろう。その少し手前の太陽が小祝島の横に落ちて、神様が降りて来るんじゃないかと思った。光の階段を降りて、恵みの海をすすっと歩いて、この美しい島まで、神様がやってくるんじゃないかと思った。
 「原発絶対反対」の大きな文字も、太陽は照らしていた。
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 翌朝、6時45分の高速船に乗って、祝島を後にした。
 早朝にも関わらず、船は多くの人が乗っていた。中学へ行く女の子もいた。

 結局、原さんが「話を聞いてみるといい」と紹介してくださった町の世話役のような方のところは、訪ねては行ったものの、うまくお会いすることができなかった。
 でも、今回はそれでよかったと思う。
 私は祝島の人たちが、なぜ30年間も、それこそ身体を張って、10億円という大金さえもつき返して、反対を貫きとおすことができたのか、それを知りたいと思っていた。
 でも、たった2日ほどだけだけれども島をブラブラと歩いてみて、とてもばかげた質問だったなと思うようになった。だからいきなり訪れてそんなことを聞いてみる勇気は、とっくになくしていた。
 でも、「なぜ」なのか、それはとてもよく分かったように思う。
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 滞在中、30年ほど前に祝島中学校(今はない)で美術を教えておられたという大井しげる先生が、展覧会とコンサートを開いておられたので参加してみた。
 ちょうど帰省していた元教え子さんたちも集まっていて、島の人しか分からない話題を歌詞にした歌などが歌われ、こじんまりとした温かい時間が流れていた。
 最後に、先生が作詞された歌が紹介された。「祝島だけじゃなく、今は日本中への想いとして」と。
 島では桜の花びらが、物干し竿にぶら下がった干し魚のかごの中に舞う。
 そんな風景が先生は、とても好きだったのだそうだ。

 『やさしい風-ふるさとの空と海』
 
 (中略)
 ネコがぽつんと つぶやいた
 干し魚見上げ
 おいしい魚をいつまでも 
 いつまでも食べていたいと
 
 (中略)

 ふるさとの空と海 やさしい風が吹く
 もの干し竿のかごの中にも 桜の花びらヒラヒラ
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 ↑ 山肌が削られているところが、上関原発建設予定地 
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by bag-tentomusi | 2011-05-16 00:59


「知彩庵」より。日々の咀嚼と、紡ぐことば


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