工場で機械が動くおと

 1週間ほど前の話になるが、私の着物師匠であり料理師匠でもある記者のKさんと、着物師匠のお姐さんに引っ付いて、「新春着物特別号」(?)の取材へと同行した。

 目指すは「臼井織布株式会社」さん。三重県の津市で唯一残る、伊勢木綿の織元さんである。

 着物師匠のお姐さんは、Kさんの新聞に着物コラムの欄を持っていて、来年の新春号でカラーの特集を組む。そこで伊勢木綿の織元を訪ね、ご主人のお話をうかがい、記事を書く予定なのだが、私ともう一人の同行者は、「着物ライフを楽しむ(一応)若い人」としてのモデル(え?違う?)として登場するという、そういう段取りのようだ。

 さて、近鉄特急で2時間ほど、津市へ。ここからは車で、寺内町にある「臼井織布株式会社」さんへ到着した。
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  昔このあたりで栄えた伊勢木綿は、名古屋よりもむしろ江戸に向けて、多くの製品を送り出してきたそうだ。戦後は寝巻きが大繁盛し、織元の多くは寝巻き用の布を織ってきたのだが、最近はそれも衰退。今では臼井さんのところが一軒残るのみなのだという。臼井さんの会社も、お世辞にもきれいだとは言えず、伊勢湾台風の傷跡がまだ残っているような、古い建物だった。入り口を入ると土間があって、上がったところはガラス戸のある畳の部屋になっており、おばあさんが店番をされている。土間の奥が、工場だ。取材の約束はすっかり失念していたと言うご主人が、職人らしい嫌味のないムッツリ加減で、工場の中を案内してくださった。

 最初の部屋は、糸の棒がたくさん並んでいて、糸が一箇所に集められていっている。たぶん、縦糸をよっているのだと思う。ほとんど木製の機械で、それが音をたてて、一斉にまわっているのだ。ネズミのおばあさんが頬かむりをして、番をしてそうな、そういう雰囲気のするお部屋。白の糸の鮮やかさが、目に焼きつく。

 次のお部屋が、いよいよ「織り」の部屋だ。
 扉をあけるとそこは、「シャン、シャン、シャン!」という織機の音。小学校だかの教科書に載っていた「トヨタ織機」が20台ほど現役で動いている。織機の動きはすばやくて、セットされた縦糸の間を、横糸がすごいスピードで、右に左に駆け抜けていく。ときどき動きが止まると、おばちゃんがそんなに慌てずにやってきて、手を加える。そしてまた、「シャン、シャン、シャン!」。織機はすべて、大きなベルトがまわる力で動いているのだけれど、その力が無数の歯車に伝えられて、小さな微調整が行なえるような仕組みになっている。100年前から変わらず、修理を重ねて使っているそうだが、100年前にこの織機を作った人たちと、初めてそれに触れた職人たちの熱気たるや、どんなものだったろうか。

 私の世代でもすでに「機械」と言えば、コンピューター制御された「仕組みの見えないもの」を想像する。今は織機も、コンピューター制御されているものがほとんどらしいが、それでは動きが早すぎて、化学繊維でないと糸が切れてしまうのだそうだ。それに、仕組みが見えないから、自分たちで修理して100年も使い続けることなんて、とてもできない。
 臼井さんのトヨタ織機は「仕組み」が見える。「機械って言えるのは、ここまで」と、ご主人。

 それに、機械の立てる音が、やかましいんだけれど、心地いいのだ。

 昔、こんな歌があった。
 『静かに耳を 傾けよう
 夜明けに花が開く音
 工場で機械が動く音
 世界の音が 聞こえるよ』

 「工場で機械が動く音」が、どうしてこんなきれいな詩のなかに、象徴的に出てくるのかと、ずっと不思議だった。
 でも、夜明けに織機が「シャン、シャン、シャン」となり始めることに、静かに耳を傾けることは、きっと悪い気分がしないだろう。そして朝には土間に行商の人なんかがやってきて、ガラス戸の奥の座敷に腰掛けて、おばあちゃんと木綿の話をしたりする、そういう一日が始まるのだろう。
 「機械」の音を、初めて聞いた。

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 伊勢木綿は、昔からのデザインを忠実に守って織っておられるそうだが、ポップな柄が多くて、何となく「現代風」でもある。なんとか気軽に着物として着てもらえるように、色んな工夫もされているようだけれど、最後の織元がなくならないようにと願うばかりだ。そのあたりの話になると、ご主人は饒舌になり、たくさんのおしゃべりと、部屋に積まれた反物を何度も広げて楽しんだあとに、まだ織機にかかって織り途中だった布がどうしても忘れられず、お願いをしてそれを一反、分けていただくことになった。

 綿花が糸になり、縦糸ができて、横糸が加わって、布になって、それを選んで、寸法を伝えて、誰かが縫ってくれる。それを買う。
 「買うという行為は、そのモノに対するリスペクトの最大の表現のひとつだと思っています。
 そして、そのモノを通じて、作った人間との共有の感情を得ます。
 すると、モノのもっと本質に触れていくことが出来ると考えています。」
 昔、「GEODESIQUE」さんでアクセサリーを買ったときに、言っていただいた言葉なのだけれど、本当にそのとおりだと思う。
 


 


 
 
 
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by bag-tentomusi | 2011-12-18 02:54


「知彩庵」より。日々の咀嚼と、紡ぐことば


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