古時計

 写真は、じいちゃんの形見分けの古時計。古時計と言っても、40年くらい前のものだと言っていたから、そんなにアンティークって感じではない。b0180333_2326558.jpg小さいとき、じいちゃんちで寝るときは、いつもこの時計がカチカチと鳴っていて恐かった。さらに恐ろしかったことには、それぞれの時刻と同じ回数の鐘が、ぼーんぼーんと鳴るのだ。11時だと11ぼーん。それが終わるまでは、とても眠れたものではなかった。
 いつからか、そんな振り子と鐘の音が心地よくなり、じいちゃんには冗談で「この時計が欲しい」と言っていたけれど、どうしても持って帰る気にはなれなかった。あの埃っぽい部屋で、いつまでもぼーんぼーんとやってて欲しかったんだ。
 じいちゃんは、活発な九州男児で、何でも身体で感じる人で、どちらかと言えば陰気で夢見がちな子どもだった私は、ちょっと彼が苦手だった。だからもっと他に「明るい」孫がいる中で、じいちゃんが私にこの古時計を残してくれたことは、うれしいような申し訳ないような、不思議な気持ちがした。じいちゃんが死んで、私が古時計を連れて家を出たとき、それは包みの中で一回、「ぼーん」と鳴った。

 仕事がら、とは言いたくないが、たくさんの「死」に出会う。自宅で一人で消える命。
 まだ30代だった彼は「退院するのが恐い」と泣いたという。生きたかったんだと思いたい。
 これでやっと、彼が願った「酒のない世界」で暮らせる。

 じいちゃんの古時計は、うちに来てから「長針が0分で2回ぼーん、30分で1回ぼーん」と、ずいぶんとお行儀よくなった。今もカチカチと、時を刻んでいる。
 「死」ということが、「いなくなる」ということが、どういうことか、私にはまだよく分からないけど。
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# by bag-tentomusi | 2009-05-11 23:27

はじめまして

 まだ20代前半だったころ、「どんな30歳になるか」という話をよくした。「若い女の子」ではなくなったとき、その特権?や言い訳?が使えなくなったとき、それまでの人柄や経験が滲み出てくる、といったような話だったと思う。
 ところが、いざ30歳になってみると、別に何のことはない「道の途上」で、その先の道のりの方がどーんと続いていて果てしない。
 この10年で、それなりに色んなことを考えたり想ったり挑戦したりしてきた。それは昔、泥団子を作ったとき、少しずつ少しずつまわりに砂と水を刷り込んでピカピカにしていったみたいに、ゆっくりと今の私を作り上げたと思う。それは確かだ。でも、何かの「実績」を作り上げたかと言うとそうではなくて、それでもまぁ、そんなもんだろうと気楽に思っていたりする。
 30歳になった日曜日、私がしたこと。洗濯、部屋の片付け、ネットで古家を探すこと、転職サイトの閲覧(笑)、きんぴらごぼうを作ること。ごぼうは、奈良の方言で「ごんぼ」と言って、私はこの「ごんぼ」という言葉の響きがとても好き。「ごぼう」はただの根菜だけど、「ごんぼ」は、土の中からにょっこり出てきた美味しいあったかい食べ物。小さい頃、八百屋さんで買ってから庭に埋めて保存してあったごんぼを、夕食前に掘り出してくるのは、私の役目だった。母のごんぼのささがきはとても細かかったけど、私のは何度やってもやたら太い。
 若いころの私は「人生、エネルギッシュに何かを成し遂げてナンボ」だったような気がする。それに比べて、今の私はこんな感じでうだうだしている。「社会にどうかかわるか」が20代のテーマで、「今どき珍しい」とよく言われた。でも最近は、もっと自分が気持ちいいことを追求してもいいんじゃないかと思っている。気持ちのいい午後に料理をしたり、何も求めずに(笑)本を読んだり、何の目的もなく文章を書いたり、好きな町を散歩したり、古い着物を着たり。私が気持ちよく暮らすことは、きっとまわりまわって、社会につながってくんじゃないかなぁ。
 そんなふうに考えるようになったのは、今年に入って咳が止まらなくなって(たいしたことないはずだけど、ずっと病気をしなかった自分にはすごい出来事だった)、初めて「自分の身体を自分でコントロールできない」感覚に襲われたからかも知れないし、たんに「歳」なだけかも知れないし、日々の仕事のしんどさからの逃げ口上かも知れないけれど。
 「新日曜美術館」の司会者が、壇ふみさんから、姜尚中さんに代わっていた。「作品を仕上げて、でも出来上がったらもう少しここを・・・っていうところが出てくる。学問も芸術も人生はその繰り返しで、一人の人生で成し遂げられることなんてない」とのこと。
 とりあえず、三十路を記念して(?)ブログを始めてみました。よろしくお願いします。
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# by bag-tentomusi | 2009-05-10 12:00


「知彩庵」より。日々の咀嚼と、紡ぐことば


by bag-tentomusi

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